2013年6月23日日曜日

この映画は低予算で大きな枠組み、フレームの話をやろうとしている~6/18高橋洋さんトーク

6月18日(火)<高橋洋×常本琢招 映画演出を語る>

左より常本琢招監督、高橋洋さん


この日は、脚本家・映画監督の高橋洋さんがトークに登壇。ごく初期から常本監督の演出の腕を高く評価されている高橋さんに、常本演出、さらに『蒼白者A Pale Woman』について伺いました。
高橋:今日は常本演出を語るということで、家にあったオリジナルビデオ『健康師ダン』(1997)を見たんですけど、やはり非常に良くてですね、これが常本さんの強さだと思ったのは、主演の京本政樹の助手の女の子が京本を好きで好きで仕方がないんだけど、京本は気づいてない。
女の子は京本と握手したくてしたくてたまらなくて(京本と握手すると秘孔を突かれて得も言われぬ快楽を感じる設定)、それであるシーンで、京本と握手するチャンスが来るんだけど、京本から差し出された手を今まさに握ろうとすると横にいた(友達役の)安岡力也が不意に女の子の手を握って非常に悔しがるという・・・
常本:ベタベタなシーンですが。
高橋:でもあれ、感動するんですよね。人間の心の動きが伝わってくるんで。そういうドラマって、ふつうみんなタカチとしては撮れるんですけど、ああいうふうに、エモーション、心の動きが伝わるように撮れるのは難しくて、それがチキンとできていると、常本さんの映画を見ていていつも思うわけです。
で、そういう物凄い武器を持ってる常本さんが、キム・コッビ演じる、尋常な人間のテンションではないところで生きてる人物を描く…これは、演出のアプローチが相当大変なことになるぞ、っていうね。言葉の壁もあるし。そこをどうトライしたんだろうっていうのが、演出的には気になったんですけど。
常本:今まで日本の俳優さんと組んできたうえで、僕はどんな作品でもリハーサルをクランクイン前にやってきて、そこで役になじんでもらうということをやってきたんですが、実は今回もコッビさんと忍成さんに1日だけリハーサルをやってもらったんですね。
いつもはそこで役者さんにエンジン全開にしてもらって現場に突入、という感じなんですが、今回、キム・コッビの場合はリハーサルでは気持ちを十全に入れて演じる、という感じではありませんでした。「俺の今までのやり方は通用しないんだなあ」と思いましたが、その代わり、コッビさんはお酒を飲みながらなどで、とにかく、僕やキャストの皆さんと「語り合う」ことを望まれました。コッビさん自身「韓国では1か月くらい撮影前に準備期間を持つけれど、今回はそれがないので」と言ってましたが、リハより、スタッフ・キャストとコミュニケーションをとることで役の感情をつかんでいったのが印象的でした。
僕との間で言うと、「微笑み」がコッビさん演じる役のポイントだったので、なぜ微笑むのか、どのシーンでどの程度の微笑みなのか、に関しては細かく詰めていきました。
いざ本番になると、僕のつたない指示を十全に理解して、指示以上に僕がやってほしいことを表現してくださったので、素直にすごいな、と思いました。
そして、この映画の映像設計について高橋さんは・・・
高橋:この映画を最初見たとき、キム・コッビが何しに日本に来たのかが、いまひとつわからなかったんですが、2回見て、「お母さんと決着を付けに来たんだな」と明確にわかりました。
そうすると、韓国のシーンの後、日本に舞台が移って中川安奈さんが水族館のシーンで青白い光の中を受けて死人のように立っているのは非常に重要なことなんだなって思いました。
韓国で死をも決意したキムコッビがいて、うけとめるのはあの青い顔をした中川安奈なんですよね。そして後半の水族館のシーンでキム・コッビが残酷な決断をするシーンでも、そのあと倉庫で安奈さんの長男を渡辺護さんふんする会長に譲りわたすシーンでも、同じように青白い光が当たっていて、同じ血が(青白い?)流れてる二人の女の戦いであるっていう風に映像設計がされているんだなあと思いました。
それから、回想で、揺らめいているような光がいつもあたり続けているんですが、あれがすごく効果的でいいんですよね。コッビが最後死ぬところで白い光が当たるんですが、あそこにも揺らめく光があってほしかったな、と思ったくらい(笑)
そして、高橋さんは『蒼白者A Pale Woman』が意外な映画に似ていると言い出しました。
高橋:この映画を見て思い出したのは、『日本の黒幕<フィクサー>』、かつて大島渚が撮ろうとして頓挫したことだけが語られてる映画ですが、いま観るとすごく変、っていう。当時のロッキード事件の児玉誉士夫がモデルといわれていて、右翼の巣窟である屋敷の中がついに出てくる、というのが見せ所だったんですけど、この映画も食肉産業のドンの屋敷が出てきて、そこには男くさい奴等がいて、「この家から出て行けない」人の話でもあるという。その捕らえ方が、蒼白者って、すごく近い。
常本:『日本の黒幕<フィクサー>』は封切り時に観て以来、見返していないのでなんともいえないのですが・・・その屋敷の中で、その男くさい男たちが、何かというと一緒に飯を食って重要な話をする・・・という記憶は薄ぼんやりあってですね、影響されたわけではないんですが、『蒼白者 A Pale Woman』も中川安奈さんの作った食事を食べながら重要な話をする、というシーンが繰り返し出てくるので、そこは似てるなあと思います。
千浦僚さんからはルイス・マイルストンの『呪いの血』にストーリーがそっくりといわれて、そういえば確かに小さいころ愛し合った二人が、片方が親族を殺したことで引き裂かれ、何年か経って再び再開したときに悲劇が始まる・・・といった枠組みがそっくりで、驚きました。
そして最後に。
高橋:この映画は低予算で大きな枠組み、フレームの話をやろうとしている。そこから考えると、今後映画を作る人たちは、企画と予算とお話作りと演出、全部ひっくるめて考えて、それがあるバランスに達したときに“はじめて”商品たりうるという、恐ろしい時代になったなあと・・・
さまざまな角度から『蒼白者 A Pale Woman』に迫ってくれた高橋さん。
ありがとうございました!

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